世界のポプラと中国におけるポプラ植林
(社)海外産業植林センター   小川 章 氏



1.はじめに −Populus属について−
 我が国の樹木分類では、Populus属はハコヤナギ属と呼ばれる。これは我が国在来のPopulus属樹木のヤマナラシ・ドロノキに対する古来の呼び名がハコヤナギであったことによる(猪熊)。ハコヤナギはヤマナラシの別名としても用いられる(東)。又、Populus属にはヤマナラシ属の呼称もある(堀田、浜谷)。ヤマナラシの仲間をポプラ(poplar)と総称することもある(大橋)。ポプラ・ハコヤナギ・ヤマナラシという表記に関しては、属、種等の何れを指しているか確認する必要がある。
 ポプラという呼び名は、しかしながら一般に広く知られ、特に北海道の景観を語る時必ず登場する。日本語としての「ポプラ」は、広辞苑によると、北欧原産で樹形が美しいセイヨウハコヤナギを指し、更に北米産のアメリカヤマナラシ等同属の数種の総称とすることもある。日本語の「ポプラ」は、我が国原産のヤマナラシ・ドロノキは含んでおらず、外来種を内容とする用語ということになる。
 ヨーロッパと西アジアに分布するヨーロッパクロポプラ(P.nigra)の内、樹冠が狭く、箒状になるものをセイヨウハコヤナギ(イタリヤヤマナラシ)(P.nigra var.italica)と呼ぶとの記載もある。原産地はよく分かっていない。イタリヤからヨーロッパ全域に広まったようである(浜谷)。
 この箒状のポプラ、セイヨウハコヤナギは、かつて、イタリヤヤマナラシ(P.nigra var.italica)とされており(猪熊、平井)、Lombardy poplarとも呼ばれた(柳沢)。ヨーロッパにおいても、恐らくこのポプラはが最もよく知られた種類で多くの人はその名を聞けば、すぐ、フランスの並木路や河の風景を思い浮かべるとされている(Procter)。


2.ポプラ属の天然分布と細分
1)ポプラ属の天然分布 
ogawa1
 Populus属(ポプラ属:以下ポプラ属の呼称を使用)はSalix属(ヤナギ属)と共にヤナギ科(Salicaceae)に属する落葉高木である。
 世界のポプラ属は約30種(猪熊、Procter)、約40種(東、堀田他、北村他)或いは約100種(王、大橋)からなるとされている。我が国におけるポプラの歴史は約100年とされているが、渡辺(1910)の著書では僅か12種の記載であった世界のポプラ属は、研究の進展に従って30〜40種から100種へと拡大した。アメリカ・ヨーロッパ・アジアにかけての北回帰線以北の北半球に広く分布する。 
 我が国のポプラ属は、基本的にはドロノキ(P.maximowiczii)、ヤマナラシ(P.sieboldii)の2種(森(徳典))とされ、第3の種としてチョウセンヤマナラシ(P.davidiana)(猪熊)或いはエゾヤマナラシ(P.jesoensis)(東)があげられる。又、北村はヤマナラシ・チョウセンヤナラシをP.tremulaの変種としている。
2)ポプラ属の細分
 ポプラ属は重要性、分布、経済性等から節・亜節に区分される。FAO(1979/1952:主に1979を引用)によるとその区分は次の通りである。

   
Section
(節)
Subsect.
(亜節)
地理的分布 主な樹種
Turanga East and Central Asia and North Africa P. eupfratica
Leuce
(aspen)
ヤマナラシ節
Trepidae
(aspen)
ヤマナラシ亜節
Northern and mountainous regions of Eurasia and North America P. tremula
P. tremuloides
P. grandidentata
Albidae
(white popular)
ギンドロ亜節
Around Mediterranean and uplands in Eastern Europe P. alba
Aigeriros
(poplar)
(black poplar)
クロヤマナラシ節
North America, Mediterranean region P. nigra
P. deltoides
(cottonwood)
Tacamahaca
(balsam poplar)
ドロノキ節
Northern and mountainous region of North America and Central Asia P. tacamahaca
P. trichocarpa
P. candicans
P. laurifolia
P. yunnanensis
P. maximowiczii
P. simonii
Leucoides Eastern South America and Central Asia P. lasiocarpa
    これらの内、林業的に重要な節はLeuce、Aigeiros、Tacamahaca節とされている(平井)。

3.ポプラと人類とのかかわり
1)ヨーロッパ、アメリカにおけるポプラ

 ポプラ天然林の開発の歴史は古く、イタリヤのポー河渓谷からフランス国境に自生していたポプラはローマ時代に既に開発された歴史がある(Schreiner)。北イタリヤ・南イタリヤでは、ここ数百年来天然生ポプラは重要な樹種とされ、天然更新林分は保護の対象とされてきており、又、植林も行われたようである。ポプラは世代を越えて利用され、又、女子誕生に際してはポプラが植えられ、結婚の持参金とされる習わしもあった。更に、ヨーロッパではポプラは神話や古文献にもしばしば登場する。
天然ポプラ(P.nigra:クロポプラ、black poplar)は数世紀に亘り、フランスの一部、ドイツのライン河沿いなどでも利用されてきた。このヨーロッパのポプラ材は、アメリカのblack poplar(cottonwood(アメリカクロヤマナラシ):P.deltoides)雑種の導入までの長い間、ドイツの農家建築等において使用されてきた。
 ヨーロッパにおける本格的なポプラ栽培は、約250年前のアメリカのblack poplar導入に始まった。そしてこの250年間にアメリカのblack poplarとヨーロッパのblack poplarとの天然交雑によるhybridが多数作り出された。hybrid間の交雑、ヨーロッパ種とのbackcrossも進められた。これらhybridの多くは親種と比べ、生長、耐病性、樹形その他の形質において優れていた。これらは挿し木により容易に増殖され、植林に使用されてきた。特にフランスがヨーロッパのポプラ栽培をリードしてきた。
 アメリカにおいてもhybrid poplarは、木材資源の枯渇対策に大きな役割を果たしてきた。


2)日本におけるポプラ
 札幌市をはじめ、北海道の広大な平原によく見かける箒状のポプラは観光客を魅了する。このポプラは現在では、ポプラあるいはセイヨウハコヤナギと呼ばれP. x canadensisの学名が与えれている。我が国へは明治の初年に導入され、大きなものは高さ40mに達する。このポプラは起源がはっきりせず、かつては学名もヨーロッパクロヤマナラシ(P.nigra)の変種、P.nig.var.italicaとされ和名では同様セイヨウハコヤナギ(イタリヤヤマナラシ)が用いられていた(浜谷)。
 何れにしても、日本人がポプラの名前を知ってから、先に述べたように、まだ、100年程しか経っていない。古来、日本においてポプラが用途的に重要視された形跡は余り見られない。スギ、ヒノキをはじめ優れた木材があったことにもよろう。主に街路樹や庭園木に用いられ、材としては白く柔らかいことから細工物に使用された程度である。
僅かに脚光をあびるようになったのはマッチ工業の勃興以来であり、各国ともポプラは乱伐にあったが、我が国でも明治12年に官営の工場が開設されて以降の一時期には天然木は著しく減ってしまったという歴史がある(浜谷)。
 ポプラの本格的な植林は第2次大戦後の所謂「改良ポプラ」(主にクロヤマナラシ系の雑種クローン)の導入まで待つことになる。東大猪熊教授は、イタリヤ系を中心にヨーロッパ諸国から100余種の改良ポプラを導入し、我が国に適する候補種19系統を選定した。1960年代前半のことである。北海道から本州まで植栽されたが、低温害、病虫害、更に台風害などもあり期待された成果は得られなかった。小林博士によると、「我が国にはポプラの適地は少なかった」。因みに、我国林木育種草創期の1956年に、中村博士はポプラについて「我国には適地はない、欧米でも適地は限られている」として植林に関して懸念を述べている。
 我が国の植林をめぐる環境は、木材需給における輸入材比率の急増を受け厳しい林業環境に陥り、植林事業の急速な収束につながったことは周知の事実であり、ポプラにおいてもその例外ではなかった。


3)ポプラの育種
 第2次世界大戦中木材不足に悩んだイタリヤが、ポプラの生長の早さに着目して所謂イタリヤポプラを作り上げたことは有名である。ポプラの内、育種対象になっているのはヤマナラシ節(Sect.Leuce)、クロヤマナラシ節(Sect.Aigeiros)、ドロノキ節(Sect.Tacamahaca)
であるが、イタリヤポプラの例、中国の例における主な育種対象もクロヤマナラシ節である。
ヨーロッパでは、18世紀にアメリカクロヤマナラシが導入されてから、ヨーロッパクロヤマナラシとの間に天然交雑が進み、栽培品種も多数作出された。これらはカナダポプラ(P.canadensis)という総称のもとに変種として扱われることもあったが、現在はP.euramericanaに統一されている。
 その後に進められた育種はいわゆるイタリヤポプラを誕生させた。中国において黄河・長江流域を対象に育種・育林が進められてきたポプラは、クロヤマナラシ節のアメリカクロヤマナラシ(P.deltoies)からの育成種が中心である。ドロノキ節では王子製紙による「北海ポプラ」があり、ヤマナラシ節においてはヨーロッパヤマナラシ(P.tremula)とアメリカヤマナラシ(P.tremuloides)との雑種(雑種ヤマナラシ:hybrid aspen)がある。
   「北海ポプラ」は筆者がかつて在籍した王子製紙林木育種研究所において、故千葉茂博士を中心に、山地植林用ポプラとしてドロノキ(北海道原産のポプラ)を改良・作出された品種の”品種登録名”である。原種は王子製紙森林博物館の圃場にて保存されている。


4.中国におけるポプラ栽培の実践例 1)中国におけるポプラの天然分布(筆者(1997):中国におけるポプラ類の育種・育林現況−研究経過と現況概況、林木の育種、No.183から引用
 世界には100余種のポプラが分布するがその内中国には50余種が見られるとしてされており、更に変種・品種40種余が知られている。


2)中国におけるポプラ植林(筆者(1998):中国におけるポプラ類の地域別主要品種、Fast Growing Trees、No.4、中国ポプラ等早生樹調査開発研究協議会(早生樹協議会)から引用)
 中国におけるポプラ栽培の歴史は遡ること2000年以上に及ぶとされている。本格的なポプラ植林は大略1950年代以降であるが、育種研究、更に育林・利用研究とも相まって、現在までに数10万ha相当の集約栽培ポプラ林が造成されてきた。
 中国におけるポプラ属の育種研究は1950年代初頭から始められ、在来種ではLeuce節のP.alba、P.davidiana、P.tomentosa、P.hopeiensis、Tacamahaca節のP.simonii、P.cathayana、Aigeiros節のP.nigra、Turanga節のP.euphratica、導入種ではP.euramericana、P.deltoides等が対象とされている。
 育林研究も併行して取り上げられ、樹種・品種適応性比較、植栽密度、施肥、植栽適地等各方面から検討されてきている。生産材の用途開発も進められている。
 ここでは、これらの研究から@地域別に見た主要な植林樹種・品種、A生長予測結果を取り上げた。中国のポプラ植林に関する基礎情報の一つとして、参考になるところがあれば望外の喜びである。


2−1)中国の植林樹種におけるポプラの位置付け
 中国には亜寒帯から亜熱帯・熱帯まで幅広い立地条件があり、そのため植林対象樹種は頗る多数にのぼっている。それらの内、中国における重点樹種・早生樹種を属名でみると、東北部ではLarix・Pinus・Fraxinus、北中部(華北〜華中・華東)ではPopulus・Paulownia・Ulmus、南部(華南)ではCunninghamia・Pinus・Acacia・Eucalyptusとされている。
 Populusは中国の温・暖帯に属する北中部の主要な重点樹種であり、Larix・北方系Pinus等の北方系樹種とAcacia・Eucalyptus・南方系Pinus等の南方系樹種との接点とも言うべき位置付けが明らかになってくる。 

2−2)中国におけるポプラ類の栽培区別生産力概況
 ポプラ類についての栽培区別の主要栽培樹種・品種、平均輪伐年数・MAI(年平均材積成長量)は次表の通りである。
 (表) 
 
  樹種・品種 平均輪伐年数
(年)
MAI
(m3/ha/y)
1 北京楊、群衆楊、小黒楊、小青黒楊、白城楊 14 12.0
2 北京楊、群衆楊、小黒楊、昭林6楊、赤峰楊、沙蘭楊、健楊 14 15.0
3 毛白楊、I-214楊、沙蘭楊、健楊、北京楊、群衆楊 11 16.5
4 毛白楊、I-214楊、沙蘭楊、I-72楊、I-69楊、I-63楊 11 18.0
5 I-72楊、I-69楊、I-63楊 7 19.5
6 北京楊、群衆楊、小黒楊、昭林6楊、赤峰楊、健楊 14 15.0
7 毛白楊、北京楊、群衆楊、小黒楊、新彊楊 14 12.0
8 毛白楊、I-214楊、沙蘭楊 12 15.0
9 北京楊、群衆楊、新彊楊、二白楊、箭杆楊 15 10.5
10 北京楊、新彊楊、青楊 15 12.0
11 北京楊、群衆楊、新彊楊、銀白楊、箭杆楊、額河楊 15 12.0
12 群衆楊、新彊楊、健楊 15 15.5
13 新彊楊、銀白楊 15 16.5

 各栽培区を通じた、MAIによるグループ分けは次表の通りである。
 
生産力区分 栽培区 平均輪伐年数
(年)
MAI
(m3/ha/y)
I. 高生産力栽培区 5
4
3
13
7
11
11
15
19.5
18.0
16.5
16.5
II. 平均生産力栽培区 2
6
8
12
14
15
12
15
15.0
15.0
15.0
15.0
III. 低生産力栽培区 1
7
10
11
19
14
14
15
15
15
12.0
12.0
12.0
12.0
10.5

5.おわりに
 ポプラの分布・分類・歴史、中国における植林等を概観してきた。日本におけるポプラの20世紀は不運であったが、中国・ヨーロッパにおいては広く植林が進められている(東)。中国の状況については一部本稿でも取り上げたが、ヨーロッパのポプラ植林についても近況を知りたい。北半球に広く分布し100余種を数えるポプラには期待するところ大である。

引用、参考文献
  1. 渡辺全(1910):世界樹木字彙、三浦書店
  2. T.R.Peace(1952):Poplars、Forestry Commission、Bulletin No.19、FAO
  3. 中村賢太郎(1956):林木育種の動向、林業技術、No.175
  4. H.Zycha et al(1957):Die Pappel、Verlag Paul Parey、Hamburg und Berlin
  5. E.J.Schreiner(1957)Production of Poplar Timber in Europe and its Significance and Application in the United States、USDA Forest Service
  6. 猪熊泰三(1957):樹木学講義録(未発表)
  7. 戸田良吉(1958):林木育種概説講義録(未発表)
  8. 早期育成林業(1958):森林資源総合対策協議会、産業図書
  9. 日本林業技術協会(1961):林業百科事典(編集委員長:吉田正男)、丸善
  10. 猪熊泰三(1963):ポプラ、ポプラ懇話会
  11. 大久保昭(1966):ポプラの栽培、ポプラ懇話会
  12. 千葉茂(1967):北海道におけるポプラの栽培、北海道林木育種協会
  13. Ray Procter(広井敏男訳)(1973):世界の樹木、主婦と生活社(ヤマナラシ類の項)
  14. 濱谷稔夫(1977):ポプラ/ヤマナラシ、世界の植物、82、朝日新聞社
  15. FAO(1979):Poplars and Willows in Wood Production and Landuse、FAO Forestry Series 10、Rome    
  16. 北村四郎他(1979):原色日本植物図鑑、木本編()、保育社
  17. 堀田満他(1989):世界有用植物辞典、平凡社(初版1996)
  18. 広辞苑(1991):岩波書店(ポプラの項)
  19. 幸田文(1994):木、新潮社(初版1992)
  20. 大橋広好(1995):ヤマナラシ/ポプラ、植物の世界、68、朝日新聞社
  21. 小川章(1997):中国におけるポプラ類の育種・育林研究−研究経過と現況概況−、 林木の育種、No.183
  22. 小川章(1998):中国におけるポプラ類の地域別主要栽培品種、Fast Growing Trees (FGT)、No.4、中国ポプラ等早生樹調査開発研究協議会(早生樹協議会)  
  23. 森徳典(1998):ハコヤナギ属(勝田柾他、日本の樹木種子)、林木育種協会
  24. 小林富士雄(2000):早生樹とその研究の意義、WOODMIC、Vol.18
  25. 日本林業技術協会(2001):森林・林業百科事典(編集委員長:小林富士雄)、丸善


著者経歴
(社)海外産業植林センター(JOPP)特別研究員、農学博士。1933年埼玉県生まれ。1958年東京大学農学部林学科卒業、1960年同大学院修士課程修了。同年王子製紙株式会社入社、その後王子製紙株式会社参与・林木育種研究所(現森林資源研究所)所長、同社嘱託を経て1999年から現職。専門は立地。北海道社有林における適地適木調査・地力維持研究、東南アジア等における産業植林関連調査、緑化と土壌その他。趣味は海外一人旅(業務上の出張は開発途上国が主な対象であったので、ここ数年来アメリカ、カナダなど先進国への旅行から開始)。


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