最近の製紙原料事情と今後の展開
日本製紙連合会 副理事長 渡辺 恒 氏


氈D戦後の紙需要の急伸と原料基盤の変遷
 “紙は文化のバロメター”と言われ、戦後の目覚しい経済復興、生活水準の向上と並行して、新聞用紙、印刷・情報用紙、生活用紙、包装用紙、等として、GDPと連動してその需要は右肩上がりの上昇を示してきた。(図1)fig1
  近代日本の文化、文明の一翼を担ってきた紙であるが“製紙産業の帰趨を制するものは原料”と言われるように、明治維新とともに成立した近代的製紙産業の工場立地や生産様式を規定してきたのは原料であったと言っても過言ではない。
  近代製紙産業はぼろ布を原料として始まり、ぼろ布の発生地である大都会の東京に最初の製紙工場が設置された。原料が木材に変わってからも、モミ・ツガ、マツ、広葉樹と、材種の変化とともにその主産地に工場を立地させてきた。また、原料供給の主体が国産から輸入へ変化したのに対応して工場立地も沿岸へとシフトし、さらに、古紙化が進展し、量的に過半を占めるまでになった最近は、再び古紙の発生量の多い大都会周辺に回帰する傾向も見せ始めている。
 
 
.紙パルプ生産の現状
 昨年度史上最高の32百万トンの生産を記録した製紙業界であったが、今年に入って急速に業況が悪化してきている。上半期の国内出荷は、紙が2.2%ダウンの890万トン、板紙が1.5%ダウンの587万トン、合計で1.9%ダウンの1,470万トンと軒並み前年割れとなっている。特に、昨年の成長の旗頭であった塗工紙の落ち込みが著しい。
  下半期に入って落ち込みは一層加速してきており、9月の紙の国内出荷は前年比5.5%ダウン、板紙も4.5%ダウンと今年最大の落ち込み率となっている。
  厳しい需給動向を踏まえ、各社は鋭意減産に取り組んでおり、紙は何とか市況を維持しているが、板紙の在庫水準は依然高く、引き続き市況の下落が続いている。

。.最近の原料調達の動向

 紙パルプ原料を巡る最近の動きとしては、古紙化、外材シフト、海外植林が顕著である。

1. 繊維原料の古紙へのシフト
 オイル・ショック(別面チップ・ショックでもある)を契機として、古紙利用率が高まり、繊維原料に占める古紙の割合は1990年に50%を超えるとともに、以後趨勢的に上昇を示し最近は58%に届こうという勢いである。(表1)

表1 繊維原料の構成比の推移(単位:千t, %)
年次 実数 比率
  パルプ 古 紙 その他 パルプ 古 紙 その他
1980 11,138 7,931 46 19,114 58.3 41.5 0.2 100.0
1985 10,773 10,527 43 21,343 50.5 49.3 0.2 100.0
1990 13,729 14,613 58 28,400 48.3 51.5 0.2 100.0
1995 13,734 15,804 54 29,592 46.4 53.4 0.2 100.0
1996 13,842 16,049 52 29,943 46.2 53.6 0.2 100.0
1997 14,134 16,628 52 30,814 45.8 54.0 0.2 100.0
1998 13,364 16,344 54 29,762 44.9 54.9 0.2 100.0
1999 13,295 17,047 52 30,394 43.7 56.1 0.2 100.0
2000 13,550 18,054 53 31,657 42.8 57.0 0.2 100.0


   古紙利用が急速に向上してきた要因としては、ユーザーサイドの要因とサプライサイドの要因の両面がある。
  ユーザーサイドの要因としては消費者の再生紙に対する意識が変化してきていることである。環境問題が深刻化してきている中で、リサイクル意識から、消費者の白色度等の許容範囲が広がってきており、書籍、雑誌、家庭用紙等の分野でも白色度の低いものへの抵抗感が解消されてきている。昨年5月に成立し、今年から施行されたいわゆる“グリーン購入法”等も再生紙の普及を促進させ、強力なテコとなるものと考えられる。
  サプライサイドの要因としては、環境との調和、リサイクル産業を目指して古紙利用を強力に打ち出している製紙企業の経営理念があり、これとともに製紙原料としての古紙の経済性がある。
  省資源、廃棄物問題等の環境問題への製紙業界の対応として、1990年に“リサイクル55計画”を策定して以来、1995年には“56目標”を、又2000年には“60目標”を策定して2005年の古紙利用率60%達成に向け業界をあげて努力している。
  しかしながら、こうした理念だけでは古紙利用が進展しないことも事実で、古紙が製紙原料として経済的合理性を持っていることがもうひとつの大きな要因である。製品一単位に必要な原料コストを試算すれば表7に示すように木材から作られるフッレシュパルプに較べ古紙パルプのコストははるかに安い。再生紙の販売上の制約(製品価格,需要等)が緩和されれば、古紙利用が促進するのは経済原則に照らして至極当然の流れと言えよう。(表6)
 
表6 パルプ1単位の原料コスト比(試算)
  平均価格 原 単 位 
(原料t/パルプ゚t)
パルプ1単位の
原料コスト
木材チップ 17.6円/kg 1.88 33円
古   紙 8.2円/kg 1.11 9円

 こうした古紙利用拡大の趨勢を踏まえて、各社は急速にDIP能力の増強を図っており、ここ5〜6年の間に3割以上も能力を増強している。図っており、ここ5〜6年の間に3割以上も能力を増強している。(表7)

表7 最近におけるDIP設備の能力増強の状況
西暦年 新増設数(基) 日産能力(t/日) 備  考
1998 900 2001年現在の現有能力は 14,000t/日
1999 6 990
2000 3 450
2001(計画) 3 195  
2002(計画) 3 650  
2003(計画) 1 320  
その他(詳細不明) 6 740  
1998〜2003年  計 27 4,245  

 ひとたびDIP施設が拡張されれば、設備の効率的運用のため自律的に操業度の向上が図られ、このことが又古紙利用を加速させる要因となる。
 

2. パルプ材の輸入材へのシフト
(1) パルプ材の需給推移
 木材チップの輸入は、Nチップが1965年にカナダから、またLチップは1969年マレーシア及びオーストラリアから輸入されたのが最初である。以来、今日まで輸入材のシェアは趨勢的に上昇を続け、今日のシェアは70%に達し、完全に輸入材主導の供給構造となっている。
  しかし輸入材への傾斜の程度は材種によって状況を異にしている。Nチップは、国産チップの原料が製材残材であり価格的に競争力があることから、国産チップと輸入チップがシェアを分け合う状態が長期間安定的に継続しているのに対し、Lチップは最近の10ヶ年間供給量、シェア共、留まることなく減少を続けている。(図2.3)
  fig2
fig3
 図4では一見、最近は減少に歯止めがかかってきているかにも見えるが、最近5ヵ年についても、年々、月々確実に前年を下回るとともに、5ヵ年間で、年率5%以上の大幅な減少となっており、L材における輸入材シフトは現在なおドラスティックに進行中と言えよう。(図4)
fig4
 

(2) 国産Lチップシェア低下の要因
 国産Lチップが急激にそのシェアを落としてきた要因としては、@製材残材であるNチップと異なり、丸太を切削して作るLチップは、円高の影響をもろに受けて価格競争力が低下していることに加え、A拡大造林の減少、B有利な海外供給ソースの開発や海外植林の進展があげられる。
  拡大造林は燃料革命によって用途を失った薪炭材の役割を再生させたが、この場合の林木の伐採は材の需要の有無にかかわりなく行われ、またその経費は造林コストであって素材の生産コストに計上しないですむ。換言すれば、拡大造林とリンクしたLパルプ材は、背板チップと同様に、コストを計上する必要のない廃棄物的な性格があり、こうした性格なるが故に、拡大造林の盛期には市場価格にかかわらず、多量の広葉樹パルプ材が安価かつ安定的に供給されてきた。
  拡大造林が減少した現状においては、このような価格に対し柔軟性に富むパルプ材の供給が極端に減少していることが国産シェアを趨勢的に低下させている要因の一つと考えられる。
 

(3) 輸入パルプ材の供給ソースの変化、多様化
 1960年代にチップの輸入が開始されて以来、その供給ソースは安定確保の観点から絶えず変化し多様化している。20年前の1980年の供給国はN8ヶ国、L10ヶ国であったが、10年前の1990年にはN8ヶ国、L12ヶ国と増加し、2000年現在ではN8ヶ国、L15ヶ国と更に増加し、また各ソースの供給シェアも大きく変化し続けてきた。(図5)
 
         図5 輸入パルプ材のソース構成
針葉樹(1980)      針葉樹(1990)      針葉樹(2000) 
fig5-2fig5-2fig5-3


広葉樹(1980)      広葉樹(1990)      広葉樹(2000) 
fig5-4fig5-5fig5-6
Nチップについては、20年前はアメリカ、カナダの北米大陸の独占に近かったものが、北米大陸における環境問題(マダラフクロウやグリズリーの保護)を契機に1990年代に入ってオセアニアのラジアータの人工林に急速にシフトし、現在ではその地位が逆転し、オセアニアが最大のNチップ供給地となっている。(図6)
  fig6
 Lチップについては、1980年にはオーストラリアが圧倒的なシェアを占めていたが、1990年代にはアメリカ、チリがシェアを伸ばし、オーストラリアを加えた3強体制となった。アメリカからのLチップの供給は当初はNチップと同様、北西部からのオルダー、アスペン等の供給であったが、1990年代のシェアの拡大は南部のオークに依るところが大きい。南部のオークはかつての伐採跡に生じたセコンドグロスで、オールドグロスの伐採規制が厳しくなった北西部に代替するものとして、供給ソースの開発が進んだ。(図7)
fig7
 チリは天然林のビーチ(南極ブナ)と人工林ユーカリでシェアを伸ばしてきたが、天然林については資源の枯渇や伐採規制の強化のため供給量は減少してきており、これに代替する形で南アフリカが急速にシェアを伸ばしてきている。南アフリカのチップはアカシア及びユーカリで、アカシアは本来皮なめし用のタンニン採取用に造成されたもので資源的に限界があるが、ユーカリ人工林は資源的にも潤沢であり、チリの供給がショートしてきたのに入れ替わって、その供給を伸ばしてきている。(図8)
fig8


(4) 輸入チップ供給国における植林の進展
 1960年代に、豊富な天然林資源に着目して開発されたチップの輸入であったが、天然林伐採規制が次第に強化されてきているなかで、天然林から植林木へのシフトが進むとともに供給国における植林が近年急速に進展してきている。
  Nではニュージーランドが1970年以来ハイピッチでラジアータパインの植林を推進しているほか、オーストラリアでもCO2の排出権獲得をセールスポイントに外資導入を積極的に図っており、2000年のラジアータパインの植林面積は飛躍的な拡大をみせている。
  Lではオーストラリアが天然林の伐採規制の強化=RFA(地域森林協定)による保護地域の拡大や、Nと同様CO2関連での理由によりユーカリ植林を積極化させており、チリにおいても一時減少傾向にあったが、1997年以降再び積極化してきている。
  また、日本の供給国としては後発のベトナム、中国等のアジアや南ア等においても原料用植林が積極的に進められており、これらの国のL植林地の賦存量は370万haと豊富である。(表2)
 
表2 主要輸入国の広葉樹植林の賦存状況
  豪州 チリ 中国 ベトナム 南ア
森林面積 15,808万ha 1,554万ha 16,348万ha 1,092万ha 892万ha
人工林面積 134万ha 202万ha 4,508万ha 147万ha 155万ha
・ユーカリ植林 39万ha 34万ha 67万ha 74万ha 60万ha
・アカシア植林 6万ha超 73万ha 13万ha
資料:FAO 2000年森林資源評価(暫定報告)
   (Viet Nam) Ministry of Agriculture and Rural Development (MARD)
   Bureau of Resource Sciences
   INFOR, "Estadisticas Forestales 1990", Cuadro 2. 10
 注:中国、ベトナム、南アのユーカリ、アカシア植林面積は商社等からのヒアリングを
   もとに作成


(5) 製紙新興勢力の台頭
 パルプ材の輸入は、1960年代に輸入が始まって以来今日まで、我国の独壇場と言ってよい状況にあった。しかし、最近になって、中国、台湾、韓国、インドネシアなどが、自国の需要増大に対応するため、あるいは紙パルプ製品の輸出を指向して、生産を拡大し、その原料としてパルプ材の輸入を始めている。現在のところはその量はさほどのものではないが、各国の今後の対応によっては将来、輸入パルプ材の獲得について競合が始まり、我国企業の原料調達戦略を見直さざるを得ない事態も懸念される。
 
3. 我国製紙企業の海外植林の展開
(1) 海外植林の開始、拡大
 製紙企業の海外植林は、経済の高度成長が爛熟期を迎え、紙の需要が飛躍的拡大を示した1970年代に始まり、オイルショックに始まる約10年の停滞期を経た後、円高移行を契機として1990年以降本格的な展開を始めている。
  現在、製紙企業がかかわりを持つプロジェクトは27プロジェクトを数えるに至っているが、例外を除けば、ほとんどが成長力の強いユーカリ、アカシアの植林で、実施地域はユーカリの郷土であるオーストラリア及びオーストラリアに類似の立地条件を持つ南半球に集中しているが、最近は更なる可能性を求めて、中国等のアジアにも関心が示され始めている。また、その立上げは1995年以降に集中しており、2000年現在で約28万haが造成され、2010年の時点では43万haに達する見通しである。(表3)
 
表3 製紙会社の海外植林の現状
関係製紙会社・地域 植林開始年 2000年末植林現状面積 現時点の植林目標面積 主 要 樹 種
日伯紙パルプ資源開発・ブラジル・ミナスジェライス州 1973 ※1 1 2 . 3 1 1 0 . 0 ユーカリ
王子製紙・パプアニューギニア・マダン州 1975 9 . 1 1 0 . 0 ユーカリ、アカシア
大昭和製紙・オーストラリア・NSW州 1989 1 . 8 5 . 0 ユーカリ
大王製紙・チリ・第X州 1989 2 8 . 0 4 0 . 0 ユーカリ、ラジアータパイン
三菱製紙・チリ・第ヲ州 1990 8 . 7 1 0 . 0 ユーカリ
日本製紙・チリ・第ヲ州 1991 1 2 . 1 1 3 . 5 ユーカリ
王子製紙、日本製紙・ニュージーランド、北島 1991 3 1 . 4 3 0 . 0 ラジアータパイン、ダグラスファー、ユーカリ
王子製紙・ニュージーランド、南島 1992 8 . 8 1 4 . 4 ユーカリ
王子製紙・オーストラリア・WA州 1993 1 9 . 9 2 6 . 0 ユーカリ
王子製紙・ベトナム・ビンデン省 1995 8 . 1 1 0 . 5 ユーカリ、アカシア
三菱製紙・オーストラリア・タスマニア州 1996 7 . 2 2 5 . 5 ユーカリ
日本製紙・オーストラリア・WA州 1996 9 . 0 2 0 . 0 ユーカリ
日本製紙・オーストラリア・ビクトリア州 1996 3 . 2 8 . 0 ユーカリ
日本製紙・南アフリカ・クワズール・ナタール州 1996 4 . 5 1 0 . 0 ユーカリ、アカシア
日本製紙・オーストラリア・SA州、ビクトリア州 1997 2 . 5 1 0 . 0 ユーカリ
王子製紙・オーストラリア・SA州、ビクトリア州 1997 4 . 0 1 0 . 0 ユーカリ
中越パ、北越、丸住・ニュージーランド、北島 1997 1 . 4 1 0 . 0 アカシア
日本製紙・中国・広東省 1998 1 . 0 1 0 . 0 ユーカリ
王子製紙・オーストラリア・クィーンズランド州 1998 2 . 0 1 0 . 0 ユーカリ
王子製紙・オーストラリア・ビクトリア州 1999 1 . 6 1 0 . 0 ユーカリ
日本製紙・オーストラリア・SA州、ビクトリア州 1999 0 . 4 5 . 0 ユーカリ
日本製紙・オーストラリア・SA州、ビクトリア州 1999 0 . 9 1 0 . 0 ユーカリ
大王製紙・オーストラリア・タスマニア州 2000 0 . 5 7 . 5 ユーカリ
日本製紙・オーストラリア・ビクトリア州 2000 0 . 2 0 . 5 ユーカリ
大王製紙・中国・広西壮族自治区 2000 - - ユーカリ
三菱製紙・エクアドル・エスメラルダス地区 2001 - 1 0 . 5 ユーカリ
日本製紙・オーストラリア・WA州 2001 - 1 . 0 ユーカリ
2 7 8 . 6 4 2 7 . 4  
資料:日本製紙連合会 注:※は暫定値(2001年3月時点)
 プロジェクトの増大とともに、毎年の植林量も年々増大してきており、現在では日本の国内造林面積に匹敵する年間3万haを超える植林が実施されている。(表5)
 
表5 海外産業植林の植林、収穫の状況
(1)植林状態(単位:ha)
  1997年 1998年 1999年 2000年
合  計 30,541 34,244 31,391 37,898
(樹種別内訳)
ユーカリ 27,008 30,471 27,986 34,129
アカシア 2,333 2,873 2,187 2,080
パイン類 1,200 900 1,218 1,689
その他 - - - -


(2)伐採状態(単位:ha)
  1997年 1998年 1999年 2000年
合  計 10,511 13,890 9,986 12,380
(樹種別内訳)
ユーカリ 8,831 11,030 6,852 9,789
アカシア 230 620 961 940
パイン類(ラジアータパイン等) 1,391 2,170 2,051 1,481
その他 60 70 122 170
注:1. 2000年の数値には一部暫定値を含む
  2. 24プロジェクト対象。


(2) 海外植林のパルプ材供給能力
 プロジェクト立上げ時期との関連で、現在のところ収穫期に達しているプロジェクトは多くないが、収穫期を迎えるプロジェクト数、収穫量は年々増加してきており、最近は年間1万ha、20万m3の収穫があり、木材チップとして、あるいはパルプに加工されて我国製紙産業の原料として輸入されている。
  全てのプロジェクトが収穫期を迎える2010年には、パルプ材に換算して800万m3を超えるチップやパルプが海外植林から自給されることが見込まれ、これは現在のチップ輸入量の3割以上に相当し、原料の安定確保に大きく貢献するとともに、外国産チップ取引における強力なバーゲニング・パワーとなることが期待される。

(3) 地球環境、地域振興等への貢献
 化石燃料の氾濫や熱帯林の減少による地球の温暖化を防止するため1992年に地球温暖化防止条約が締結され、CO2の排出抑制とともに森林によるCO2吸収・固定を積極的に助長していくこととなった。
  海外植林は、1. 成長の旺盛な=CO2吸収・固定量が大きい早生広葉樹の植林であること 2. 大規模かつ計画的、保続生産であり、CO2固定量が大きいこと 3. その対象地が森林ではなく、牧場や荒廃農地等の裸地であり、そこでの植林はCO2固定量を純増させるものであること等、温暖化の防止に対しては優れた利点を有している。
  43万haの海外植林が造成された段階では、実に2150万トンの炭素が固定され、末永く貯蔵されることとなる。我国製紙産業の年間の排出量は800万トン程度であるので海外植林のみで2.7ケ年分の排出量に見合う膨大な炭素を貯蔵している訳で、地球温暖化防止への貢献度はことのほか大きい。
  こうした海外植林の地球温暖化防止能力は森林産業のみならず異業種からも強い関心が寄せられている。エネルギー多消費型産業である電力業界や、鉄鋼業界、セメント業界、石油消費と不可分な自動車業界等、紙を媒体とする出版、印刷業界等の関心が特段強く、各国の排出削減目標及び目標達成のためのメカニズム等を取り決めた1997年の京都会議以降、CO2排出権獲得を目的として、海外植林に参入している。海外植林の経験と技術を持つのは製紙企業であり、異業種企業は共同出資の形で製紙企業のプロジェクトに相乗り参加するものが多く、先般のCOP7で京都議定書が採択された今後、製紙企業の海外植林への異業種からの参入は一層増加するものと予想される。
  また、海外植林は就労機会が少なく、生活環境も未整備な開発途上国の農村地域の振興に大きく貢献している。1975年に開始されたプロジェクトでは、植林、チップ製造、機械の維持・修理、管理の4部門で1,000人強、年間で3万人・日の安定した就労が創出され、地域の就労条件を大きく改善するとともに、道路、給水等のインフラ、集会所、生活物資の調達(売店)等地域社会全般にわたる改善に直接、間接に寄与している。
 

「. 今後の展望と課題

(1) 東アジアの紙需給の急伸と海外パルプ材資源を巡る競合
 紙の需要はGDPと強い関連を持って増加してきた。日本の経済は今後ともゆるやかではあるが安定して成長するものとの見方が一般的であり、GDPの伸びにリンクして紙の需要も増加していくことが見込まれている。通産省(現経済産業省)の見通しでは2010年の需要量を現在の1.3倍の4,000万トン強と予想している。(表4)
   
表4 将来の紙・板紙需給の見通し(通産省:紙の資源問題研究会)
    需要 供給 備考
    1994年 2010年 1994年 2010年  
日本 実数
(万トン)
2,882 4,084 2,852 3,895 2010年までの平均
指  数 100 142 100 137 経済成長率2.2%
中国 実数
(万トン)
2,472 6,259 2,135 4,726 経済成長率6.1%
指  数 100 259 100 221
ASEAN5国 実数
(万トン)
753 1,856 593 1,949 経済成長率5.8%
指 数 100 245 100 329


 この見通しはまた、近隣の中国、アセアン諸国の紙の需要は2倍以上に、供給は2〜3倍に急成長するものと予測しており、近い将来、海外森林資源を巡って厳しい競合が始まることが懸念される。

(2)環境保全要請の増大と人工林材へのシフト
 地球温暖化の防止、生態系の維持・生物多様性の維持等の環境保全に対する要請が地球規模で一層高まり、それと併行して森林、とりわけ天然林の保全要請も強くなるものと予想される。
  そうした状況の中で、パルプ材の調達は全世界的に天然林材から人工林材へのシフトを加速させざるを得ないものと思われる。日本の製紙産業も過去、着実に人工林材へのシフトを進めてきており、現在では調達量の約30%が人工林を起源とするものとなっている。人工林材へのシフトを可能とするためには、国内外、とりわけ海外における植林の進展が不可欠の条件となるが、先に述べたように主要なパルプ材供給国における植林は、オセアニア、南米を筆頭として目ざましい伸びを示しており、供給サイドの条件も整ってきている。また、日本の製紙企業の海外植林も、こうした人工林シフトを推進する重要な要素となるであろう。

(3)製紙産業の海外植林の進展と異業種の参入
 日本の製紙産業は20年に及ぶ抱卵期を経て、最近の10年間に25のプロジェクトを発足させ、本格的な海外植林展開期を迎えている。既設プロジェクトが成熟した段階の自給能力は800万m3を超えることが見込まれており、外国チップの購入、国内調達も引き続き継続することを考えれば、今後のプロジェクトの立上げペースはスローダウンし、当面は既設プロジェクトの植林が中心となるものと考えられる。新規プロジェクトの立上げの場合は、電力、ガス、鉄鋼をはじめとした異業種との連携の形が現在以上に鮮明となると考えられる。
  先般のCOP7で京都議定書の運用ルールが採択され、各国が議定書発効に向けて動き始めた。我国の対応は未だ不透明であるが、議定書の発効を想定した企業の温暖化対応の一環として海外植林に対する関心が幅広い産業分野で加速されるものと見込まれる。

(4) 国内森林・林業問題等への対応
 国内の森林・林業は戦後の拡大造林が間伐期を迎えているが、出材可能量に見合う販路を見出せないまま、伐り捨てられ、あるいは伐採できないまま森林の健全性を損なうことが懸念されている。
  また、建設リサイクル法が施行され、今後解体古材が資源として大量に市場に供給されてくることが想定される。間伐材や解体材は低質材であり、大量であることから製紙原料としての利用が期待されており、森林産業の一角を担う製紙産業としても、そうした期待に応えたいと念願している。しかし製紙原料の世界でも、古紙や輸入チップと競争力のある価格であることが利用の前提であり、その前提が満たされない限りは、林業側の期待に応えられないのが現状である。
  森林・林業基本法は「木材の利用を促進することが森林を整備し、その多面的機能の発揮につながる」との理念から、木材利用促進策を強力に進めようとしているが、間伐材等の低質材が市場メカニズムを通して利用が可能となるようなシステムが構築されることを期待したい。
 



著者経歴
渡邊 恒 氏
日本製紙連合会副理事長。1964年京都大学農学部林学科卒業、林野庁入庁。造林保全課長、林木育種センター所長、高知営林局長を歴任し、1994年退官。同年より現職、林材関係を担当。主としてパルプ材の安定確保と環境との共存の観点から、海外植林の推進、地球温暖化と森林、森林の認証などの業務に従事。趣味は読書、囲碁、園芸(寒蘭)など。


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